オランダ特許:超低コストの欧州での保護

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日欧実務の違いを考慮した効率的な手続きをいたします Masaoki Ishiguro Patent Attorney

1.欧州における特許保護

欧州で特許による保護を受けるためには、欧州特許出願をすることが最適です。欧州特許は多数の国で有効化することができ、特にライセンス交渉等に用いる場合に役立ちます。日本企業は欧州特許出願を積極的にしており、日本の欧州特許出願数は世界第3位です。

 

欧州全体で特許保護を受けることは理想的ですが、コストの観点から全ての発明については欧州特許出願ができない場合もあります。しかし、競合企業が欧州にいる場合、欧州で有する特許が少ないことは高リスクです。特に欧州企業と係争になった場合、クロスライセンス交渉の余地が無くなり、高額のライセンス費用を支払うことになりかねません。

 

ここで、ある発明について欧州で全く特許を持っていない場合と欧州の一国で特許を持っている場合とでは、交渉の際の立場が全く異なります。そこで、欧州特許出願をする予算がどうしても無い場合に欧州で特許保護を受ける代替手段として、各国への直接出願を考えることには意義があります。

 

2.オランダ特許

オランダ特許は日本企業にとって馴染みが深いものではありませんが、極めて費用対効果が高い特許です。オランダは欧州最大の港があるため欧州の玄関としての役割があり(EUの港湾輸入貨物量のうち約17%がオランダ港湾から輸入される)、オランダでの差止めは欧州中の物流に壊滅的な打撃を与えます。また、裁判所が特許裁判に比較的慣れている上に、極めて短期間で仮判決が得られるkort gedingという制度が存在し、特許権者にとって使いやすい特許制度が整っています。

 

オランダ特許は、「サーチレポートが発行される無審査主義」というユニークな制度を採用しています。オランダ特許出願をすると、欧州サーチレポートや国際サーチレポートと同形式のサーチレポートが作成されます*。このサーチレポートに付随する見解書が否定的な場合であっても、オランダ特許が登録されます。したがって、審査対応費用がかからないため、極めて低コストで特許が得られます。

 

*EPOが作成するよう請求可能であり、この場合見解書が英語で作成されるので直接理解可能!

 

さらに、オランダ特許取得に要する翻訳費用も極めて低いという利点があります。オランダ特許を出願するには、クレームのみオランダ語に翻訳する必要があり、明細書は英語で構いません。したがって、米国出願用に作成した翻訳文の大半を流用することができます。この点、例えば、出願書類全てをドイツ語に翻訳しなければならないドイツ特許と比較して、翻訳についても圧倒的に低コストです。

 

なお、登録されたオランダ特許は権利行使可能であり、実際に広く活用されている点、日本の実用新案とは全く異なります。サーチレポートの存在もあり、競合企業が無視することはできず、効果的な牽制材料・ライセンス交渉の道具になります。

 

したがって、「欧州出願をする予算は無いが欧州で競合企業への牽制はしておきたい」

という場合に、オランダ特許出願は極めて魅力的なオプションであると言えます。

 

3.出願戦略

残念ながらPCT出願をオランダに直接移行することはできず、オランダへの直接出願をすることが求められます。優先期間中には例えば以下のような使い方が考えられます。

  • 日本出願の優先権を主張をして米国出願をする際にオランダ出願もする。この際の追加の翻訳費用はクレーム翻訳費用のみ。
  • 日本語PCT出願をする際にオランダ出願もする。オランダ出願の際に全文翻訳が必要となるが、米国等への国内移行の際に必要となる費用が前倒しになるに過ぎない。
  • 優先期間内にオランダ出願をしてサーチレポートを取得し、当該サーチレポートに基づいて明細書を改良した上でPCT出願をする。

 

どの場合においても、オランダ特許が得られるだけでなく、当該発明の特許性を見極めるのに役立つオランダサーチレポートも得られます。これは、他国での審査請求の要否やオランダ特許の権利行使の是非の判断材料等として大いに役立ちます。

 

AOMBでは、庁費用を含めて1,800 euro*(英語クレーム1200ワードまでのオランダ語への翻訳を含む)という圧倒的な低価格でオランダ特許登録の手続を承っております。

 

*ご希望によりサーチレポートへのコメント等も別途費用により作成可能です。さらに、オランダサーチレポートの取得によりPCT出願のサーチ料が返還される場合もあり、この場合オランダ特許が実質無料で取得できることになります。詳しくは石黒までお問い合わせください(m.ishiguro@aomb.nl)。